自分と違う演奏に出会ったら
クラシック音楽の醍醐味の一つに、「演奏家の違いを楽しむ」ことがあります。
同じシューベルトのソナタなのに演奏しているピアニストによって、印象が異なります。
それは、テンポであったり音量、間の取り方、リズムなどさまざまな要素が、
天文学的な組み合わせによって作り出される個性です。
楽譜は一つなのにそこから無限の音楽が生れ、その違いを楽しむことができるのが
クラシックの魅力だと思います。
自分が演奏するときには、どういうわけか「一番最初に聴いたCD」が頭から離れないことが多々あります。
これは結構困りもので、どうしても自然にその表現に近づいていることに気付きます。
あまりなじみのない曲はさらに顕著で、後から聴いた演奏は違和感ありありということも。
しかし、この「最初のCD縛り」を乗り越えるには「聴く」という行為を考え直すことで克服できます。
演奏する上で「聴く」ことはとても大切なこと。
何度も「自分の音を聴く」と言われても、なかなかできないことでもあります。
CDになるくらいの演奏家なのですから、そこまでたどり着くまでに多くの時間をかけ、
表現に試行錯誤してきたことは明白です。
ですから、違和感を感じてもまず「聴く」。そして、なんでそのような表現になったのかを考える。
その演奏家になったつもりで、「なぜここはスタッカートなのか」「なぜノンペダルなのか」を考える。
そうすると、「ああ、そういう表現もあるのか」という感じ方ができます。
そして、自分の演奏にもそれを取り入れたりして、最終的には自分だけの表現が出来上がる。
自分と違う演奏に出会ったときにはむしろチャンスです。
音楽表現を広げるチャンスだと思って、受け入れることが大切だと思います。
これはコミュニケーションにおいてもいえること。
今の時代は、ブログ、mixi、ツイッターなど自分の意見を言える場がたくさんあります。
でも、そういう場が増えるということは「主張する人が増える」ということ。
その弊害として、相手の話をじっくりと聴くという行為の重要性が薄れているのも事実です。
主張する人だけが増える、こんなに危険なことはありません。
「聴く」ということは、簡単なようで実は主張するよりも難しいですね。
音楽はまさに「聴く」こと。
クラシック音楽のような、深い音楽に入り込んで聴き、演奏家の考えや思想に思いを巡らせることが
できれば、コミュニケーションにおいても相手のことを「聴く」ことができるはずです。
そんなことを考えながら、崇高な音楽に身を委ねてみるのもいいかもしれません。
この記事を書いている人
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新潟大学教育学部芸術学科でピアノ演奏と音楽心理学を専攻。音や音楽が人の感情におよぼす影響について研究する。飲食店やオフィスなど商用BGMに関するコンサルティング、ビジネス書、専門誌への寄稿、医療学会での講演、ラジオ、テレビ、雑誌などメディア露出も多数。BGMアドバイザーとして音楽を提供する企業への協力や、個人向けに音楽心理カウンセリング(音で心を整える)をおこなうなどその活動は多岐に渡る。
著書に「心を動かす音の心理学」がある
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